2020年5月23日土曜日
アーカイブス「長濱城史跡公園開園」画像平成27年・記事平成21年
「長浜城跡(国史跡)の整備始まる」
指定以来20年ぶり、24年度完了目指す
まず長浜側から着工
園路に魚見櫓風のデッキ
国指定史跡の長浜城跡で整備事業がスタートした。現年度計画では長浜側園路の整備などが行われる予定で、懸案だった史跡としての形を整える事業が、指定以来二十年ぶりに緒についた。この後、重須側の整備、城本体の遺構整備などを行い、二十四年度末までに完了の予定。
長浜城は内浦長浜と重須の間、内浦湾に突き出た高さ三〇㍍程の半島状の台地に築かれた。北条(早雲を祖とする後北条氏)水軍の根拠地だった重須湊を守るための城だったと考えられている。城と言っても天守を持ったような立派なものではない。
城跡は通称城山と呼ばれ、廃城後、時を経て三井家の別荘が建っていたこともあったが、昭和四十年代に取り壊された後は荒れるにまかされていた。同六十年に市教委による詳細調査が行われ、曲輪(くるわ=城などで一画を囲った場所)や土塁、空堀などが確認された。
小規模ながら四つの主な曲輪と十五の小曲輪で構成される「連郭式」と言われる城郭で、主な曲輪は土塁と空堀によって防備され、水軍城の特徴が示されている、という。また、小高くなった台地の上に築かれた山城として、二面性を持っている。
さらに、城が存在した当時、操船技術を持った土豪らが漁業経営に乗り出し、やがて津元(網元)となって、その後の内浦、西浦の漁業の発展につながった、ともされ、沼津の漁業史上でも大きな意味を持つ。
城主が替わるたびに修復されるなどして構築年代等が不明な城跡が多い中で、長浜城については、「築造期が短期間に限定できる」こと、「当初から水軍の根拠地として築造されている」ことなど、中世城郭研究に寄与する点は少なくない、とされ、昭和六十三年五月十三日に国の史跡に指定された。その後、平成十四年十二月十九日に追加指定された分も合わせて指定面積は約一五、五〇〇平方㍍。
旧石器時代の炉趾が発見され昭和五十四年に国史跡に指定された「休場遺跡」に次ぐもので、同じ後北条氏にまつわる興国寺城跡は平成八年に国史跡に指定されている。
長浜城跡の国指定を受け、市教委では平成八年、専門家八人による「長浜城跡整備基本計画策定委員会」を設けて整備の方向性を検討。これが定まった同十年、同委と並行し、一部委員が重複する形で七人による「長浜城跡総合調査委員会」を組織。策定委を発展的に解消しながら将来整備の具体的な方向を探った。
同城については水軍の城として、通常は沖合の小島などに築造されるのに対して陸続きの場所に設けられたこと、山城と水軍城の二面性を持つことなどを含め歴史的な側面とともに(漁労との関わりを考えた民俗的な面からのアプローチが行われた。
整備計画では、曲輪跡には芝を張り、建物跡には杭を打って示すなど遺構をイメージ的に表現し、土塁については当時の構造が分かるように、ある程度の復元を考えている。また空堀に関しては一カ所、堀障子(堀の中の仕切り)が確認されており、これをはっきりと示すほか、虎口(ここう=城の入り口)の跡にも杭を打つなどして表示していく予定だという。
現在行われている工事は、長浜側からの園路整備と城の説明を行う案内板の設置などガイダンス整備と言われるもの。園路については城跡東側から頂上に向かう上り道のうち、上り口を従来の場所から東側に移動して階段を設け、途中で本来の上り道に合流する形にする。階段途中には、同城が漁労と関わりが深かったことから地上高五・五㍍の位置に魚見櫓(うおみやぐら)風のデッキを設けることになり、既に、その形を現している。
現年度での具体的な工事はここまでで、このほかには城本体の遺構を復元するための実施設計が予定されている。
長浜城この城が歴史上、明らかなものとして現れるのは天正七年(一五七九)。後北条氏が木負の農民に「長浜の船掛庭(ふなかけば)」の普請を命じた『北条家朱印状』に見られるのが初めて。同じ年に北条水軍の統括者であった梶原備前守が赴任している。
ここを拠点に、駿河国に進出した武田氏と戦った「駿河湾海戦」が翌天正八年に行われている。
北条側は「安宅(あたけ)」と呼ばれる大型船、武田側は「小早(こばや)」と呼ばれる小舟を使い、安宅が小早を追い掛けるという展開が続き、小早は浮島ケ原の方にまで逃げ込んだようだ。この時、武田勝頼が本陣を構えたのは北条早雲出世の城、興国寺城ではなかったか、と見られている。
この後、長浜城は天正十八年(一五九〇)、豊臣秀吉が北条の本拠地、小田原を攻める際、北条水軍の主力ではなく土豪の大川氏が入城して守ったが、結局ここでは戦闘は行われず、北条氏の滅亡とともに廃城となった。(沼朝平成21年1月10日号)
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