2015年11月28日土曜日

井上靖 中国出征の軌跡 「行軍日記」が単行本化

井上靖 中国出征の軌跡
「行軍日記」が単行本化
 長泉町の井上靖文学館は来年3月、開催中の「戦後70年井上靖と戦争・家族・ふるさと」展で紹介している作家井上靖の1937年の中国出征の軌跡をたどる単行本「中国行軍日記」(仮題)を発刊する。行軍ルート周辺の風景を、当時といまの写真で比較し、2等兵としての出征経験が戦後の井上作品に及ぼした影響も検証する。
11月上旬に井上の次女で詩人の黒田佳子さん(70)=横浜市=、同館の徳山加陽学芸員らが行軍ルートを車でたどり、周辺取材と写真撮影を行った。
 井上が手帳に記した記述などを手掛かりに、北京南西の町「豊台」から盧溝橋などを経由し、直線距離で約300㌔離れた町「元
氏」を訪ねた。
 黒田さんは「町や田園の風景に父の姿を重ねた。22日間の行軍は、さぞやきつかっただろう」と行程を振り返る。手帳の記録で綿畑の美しさをたたえていた保定市郊外では、父の詩を読み上げた。
 井上は1937年8月25日に召集され、大陸へ渡った。部隊の一員として行軍に参加したが、体調を崩して38年1月19日に帰国した。過酷な日々の記録は月刊誌「新潮」2009年12月号で初公開された。
 単行本はこの記事を再録し、11月の取材で撮影した写真、井上の湯ケ島小の同級生で同じ部隊だった西川喜三郎さん(故人)が持ち帰った現地の写真、作品論考も加える。同館長だった故松本亮三さん(9月29日死去、享年74)が企画し、徳山学芸員らが遺志を継いだ。
 西川氏の長男濃さん(75)=伊豆市=は「知られざる井上さんの姿が分かる。おやじもさぞ、喜ぶだろう」と刊行を心待ちにする。徳山学芸員は、井上が後に書いた行軍ルート周辺の町名を織り込んだ詩を例示し、「戦争体験がどう作品に昇華したかを示したい」と意欲を見せた。
【静新平成27年11月28日(土)朝刊】

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