2020年12月9日水曜日

現生人類いつ日本列島に  鍵握る石器 長野で出土

 

現生人類いつ日本列島に

 鍵握る石器 長野で出土



 日本列島ではどのように人類の歴史が始まったのかー。長野県の山中の遺跡でこの夏、考古学や人類学の一大テーマに関わる貴重な発見があった。アフリカを出て、ユーラシア大陸を東に移動した現生人類に特有の、旧石器時代の石器のセットが国内で初めて出土。謎解明の鍵を握る石器の年代が焦点となっている。

 群馬県境に近い、標高約1100㍍の香坂山遺跡(長野県佐久市)89月、奈良文化財研究所の国武貞克主任研究員が発掘調査を実施した。地表から約3㍍を掘り、3万年前の火山灰層のさらに下から、約800点の石器が出土した。

 特徴的なのは、幅3㌢、長さは10㌢を超え、鋭い刃を持った短冊形の「大型石刃(せきじん)」、カミソリ刃のような「小石刃(しょうせきじん)」、三角形の「尖頭器(せんとうき)」の3点。1万カ所以上ある日本の旧石器時代の遺跡で、3点そろう出土は初めて。国武氏は「ユーラシア大陸の各地で見つかった、初期の現生人類が持つ石器の組み合わせと共通する」と説明する。

 現生人類は20万年前ごろまでにアフリカに出現。6万年前には各地に拡散する「出アフリカ」が起き、ユーラシア大陸を西から東に移動したとされる。中央アジア、南ロシア、中国などでは5万~4万年前にかけての、香坂山と同様の石器群が見つかつている。国武氏自身、タジキスタンのフッジ遺跡などの発掘で確認。香坂山と比べ「混ざれば見分けがつかないほど」と話す。

 類似点は遺跡の立地にも及ぶ。大陸の遺跡も標高千㍍程度に位置し、石器の材料が付近で採取できる。似た気候や環境で暮らし、移動した可能性があるといい、国武氏は「こうした人類が初めて入ってきた痕跡が、香坂山遺跡と言えるのではないか」と指摘する。

 焦点は石器の年代だ。一般に日本列島では、後期旧石器時代の38千年前から人類の痕跡が明確になる。2000年に発覚した旧石器捏造(ねつぞう)事件以降、さらに古い石器の報告例もあるが、石器かどうかの判断や年代を巡っては研究者でも意見が分かれている。

 香坂山では過去に36千~35千年前の大型石刃が出土したが、列島に近い朝鮮半島では41千年前のものが確認されるなど、大陸との年代には開きがある。

 調査では、石器とともに数百点の炭化物も採取。今後、高精度の放射性炭素年代測定で、石器の年代を特定する。国武氏は現生人類による西から東への移動を、「パレオ(いにしえの)・シルクロード」と表現。「終着点でもある列島の状況を明らかにしたい」と意気込む。

 

 ☆旧石器時代 石を打ち割って作った打製石器を主に使用していた時代。約250万年前から、寒冷な気候が温暖化し、土器の使用や農耕が始まる12千年前ごろまでとされる。石器の特徴などから、前期、中期、後期と区分される。日本列島では最も新しい後期旧石器時代の石器が集中して出土。土器の出現が世界的にも早く、16千~14千年前から縄文時代に入る。

【静新令和2129日(水)朝刊】

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