沼津軒自己破産
危機感持ち中心部対策を
JR沼津駅南口でレストランを運営してきた沼津軒が、静岡地裁沼津支部に自己破産を申請して一カ月がたった。営業が停止したレストランビルには、メニュー紹介のディスプレーが残るだけ。人けのなくなったかつての老舗の姿は、「中心部の求心力低下」という、沼津が直面している厳しい現実をあらためて浮き彫りにしているような気がしてならない。
同社は大正十五年の創業。昭和三十年代に完成したレストランビルはフロアごとに中華や和食などを分け、人気を博したという。宴会場は交通の利便性が良いことからさまざまな団体の会議がよく行われた。結婚式場としての思い出を持つ市民も多いと聞く。
取材中、自己破産を知らせる張り紙を見つめていた七十二歳の男性が、「東京にも負けないようなおいしい料理を出してくれた。本当に残念。同じように思う市民は多いんじゃないのかな」と、寂しそうな表情を見せたのが印象的だった。
経営悪化の一番の要因は、宴会を中心としたレストラン部門の不振が続いたことだったという。売り上げが落ち込むようになったのは、今も続く沼津の中心部の地盤沈下が始まったころと、驚くほど時期が重なる。
独自の戦略で人気を集めている小売業者やサービス業者がいることを考えれば、厳しい言い方となるが、外部環境の変化に対応できなかった経営陣の責任が重いことは否めない。関係者は「このような形になるなんて考えもしなかった。愛着を持ってくれていた市民に申し訳ない」と、社内的にも見通しの甘さがあったことを認めている。ただ、同時に漏らした「さまざまな合理化が追い付かないほど、急激に人足が遠のいた」という言葉からは、想像以上の早さで中心部の人の流れが変ねったことがうかがえ、一企業の経営の枠を超えた問題としても受け止めた。
沼津駅周辺では鉄道高架を中心とした総合整備事業が進むが、中心部の再生は急務で、おおむね二十年先とされる事業完成を気長に待ってはいられない状況だ。
一等地の老舗が破たんするまでに至った今回の事態を、行政や経済団体などまちづくりにかかわるすべての関係者が中心部全体の問題として危機感を持って受け止め、早急な対策を打ち出していく必要があると思う。
(東部総局・関本豪)(静新06年9月3日朝刊「湧水」)
0 件のコメント:
コメントを投稿